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高松高等裁判所 昭和63年(ネ)212号 判決

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 山原和生

被控訴人 高知県

右代表者知事 中内力

右訴訟代理人弁護士 氏原瑞穂

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月七日から完済まで、年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

1  主文一、二項と同じ

2  被控訴人敗訴のときは、担保の提供を条件とする仮執行免脱の宣言

第二主張

次のとおり訂正及び補足するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、それを引用する。

1  原判決三丁表初行の『適法』から五行目の『(3)』までを左のとおり改める。

『右法律の規定に違反しない。

一般に、国民がバイクを運転する自由は憲法一三条の規定による保障があるし、さらに原付免許を取得する権利は法律の明文規定で保障されている。しかるに、本件校則は法規範であるとしても、法令相互間の効力の優劣関係で、法律より下位のものであるから、法律で認められている原付免許の取得を校則で制限ないし禁止することは許されない。

仮に、本件校則で、生徒の日常生活の自由を制限することが許される場合があっても、その規制をするにつき、教育ないし学習上の合理的理由がある範囲に限り、許容されるのであり、右範囲以外の規制は違法である。

そして、本件校則が生徒の原付免許取得を制限ないし禁止していることについては右合理的理由がない。すなわち、

イ』

2  原判決三丁表一〇行目の『(4)』を『ロ』と、五丁表五行目の『(5)』を『ハ』と、一二行目の『ない』から同丁裏五行目の『ある』までを『ない』と、それぞれ改める。

3  原判決五丁裏六行目の『すなわち、』の次に『(1)』と加え、一〇行目の次に改行のうえ左のとおり加える。

『(2) 本件処分は違法に収集された証拠に基づく事実認定を前提とするものであるから、違法である。

イ  原付免許取得の有無は個人の秘密、プライバシーの領域に属する事項であるから、免許センターは、本人の同意・令状等がなければ、他人に免許取得者名簿の閲覧をさせるべきでない。しかるに高知県伊野免許センターは本件学校の教員に対し、昭和五九年の夏休み中に、本人の同意・令状等がないのに、免許取得者名簿を閲覧させた。しかも、右教員の閲覧目的は、本件処分をなす前提事実をつきとめること換言すると、人格権・プライバシーが侵害される生徒に対して、更に不利益をおよぼすことを目的としたものであった。したがって右閲覧は証拠の違法な収集である。

ロ  本件学校の校長が違法収集の証拠で認定した事実を前提として教育的懲戒を行うことは背理であり、違法である。』

4  原判決六丁裏末行の次に、改行のうえ、左のとおり加える。

『(一) 控訴人の憲法一三条違反の主張について

(1)  高等学校の生徒についても、形式的には年齢面から、実質的には人格形成の成熟の度合から、社会生活上、一定の範囲内で、一人の市民としての自由を享受すべきものである。しかし、生徒の市民的自由といえども、生徒の生命・身体の安全の保持、非行とその広域化の防止、学業専念の保持という学校教育における勉学に望ましい環境または雰囲気を維持する機能・設置目的に基づく制約に服すべきである。

(2)  加えて、本件校則では、生徒の原付免許の取得を地域指定による許可制としているし、またその許可制は学校当局が事前に教育的指導を施す機会を得ようとするためであるから、その許可・不許可が無条件に学校当局の判断に一任されているとは到底解されないのであり、このようなものとしての許可制をとることが社会通念上是認できないほど、生徒の自己決定権もしくは一般的自由に対する不合理な制限であるとはいえない。

(二) 法令相互間の効力の優劣関係からして、本件校則により、満一六才以上の生徒に対して免許取得を禁止・制限することは違法であるとの控訴人の主張について

学校は、国公立・私立とも、一般統治関係(一般市民社会)の中にあって、学生の教育と学術の研究という特殊な目的を有する部分社会として、他の社会と異なり、その学校の設置目的の達成に必要な限度で、一般市民社会における法令相互間の効力の優劣関係の法原則にかかわるまでもなく、学校に包括的な支配権が認められ、また、この包括的支配権の行使について教育的裁量が認められるというべきである。』

5  原判決八枚目裏末行から九枚目表初行の『別表』を『原判決別表』と改め、一一枚目表五行目の『出始め』から七行目の『までに』までを左のとおり改める。

『生徒間に流れ始め、さらには、校外からも同旨の通報が再三あった。このため、本件学校では、同年七月一九日の第一学期終業式の当日まで、朝礼の際に、無免許取得者からの自主的な申出を呼び掛けたが、申出がなかった。その間の同年六月二九日に、本件高校生徒によるモーターバイクの接触事故が発生したことから、生徒二名の無許可免許取得者のいたことが判明した。その二名の生徒を合わせて指導処遇の公平統一を図らざるをえず、他に正確を期待できる調査方法もないため、やむをえず、小・中・高等学校と警察が緊密な連携を保ち、健全な少年の育成補導に努めることを目的とし、高知県下の各警察署管内ごと、本件では、昭和三三年七月二七日に幡東地区(高知県中村警察署管内)の小・中・高等学校の職員と高知県中村警察署職員をもって組織されていた幡東地区学校警察連絡協議会がその事業の一端である少年の不良化に影響がある環境浄化ならびに少年の不良行為とその情勢の調査研究・少年補導に関する各種情報交換を行うことになっている仕組みに則り、昭和五九年八月二九日と三一日の両日にわたり、生徒指導部長らを高知県警察本部交通部運転免許課に派遣して調査した結果』

6  原判決一二枚目裏五行目の『(一)』の次に『の(3)』と加える。

第三証拠《省略》

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は次のとおり訂正及び補足するほか、原判決の理由の判示と同じであるから、それを引用する。

1  原判決一四枚目表四行目の『証人』を『原審証人』と改め、一〇行目の『証拠』の次に『及び当裁判所に顕著な事実』と、一二行目の『一三条』の次に『、また地方教育行政の組織及び運営に関する法律及び同法施行規則に基づき高知県教育委員会が制定した学校教育法施行細則第二号(ただし昭和四六年一一月二六日第一二号による改正前のもの)第二四条一項には、右施行規則一三条の規定によって行う懲戒の種類は、戒告、出席停止及び退学とする旨定められている。』と、同枚目裏初行の『要録』の次に『(学籍簿)』とそれぞれ加える。

2  原判決一五枚目裏九行目の末尾の次に改行のうえ、次のとおり加える。

『4 本件校則は憲法一三条が保障する国民の幸福追及の自由を阻害する点で違法であるとの控訴人の主張について

(一)  憲法一三条が保障する国民の私生活における自由の一つとして、何人も原付免許取得をみだりに制限禁止されないというべきである。そして、高等学校の生徒は、一般国民としての人権享受の主体である点では、高校生でない一六才以上の同年輩の国民と同じであり、この観点だけからすると、高校生の原付免許取得の自由を全面的に承認すべきである。

しかし、高等学校程度の教育を受ける過程にある生徒に対する懲戒処分の一環として、生徒の原付免許取得の自由が制限禁止されても、その自由の制約と学校の設置目的との間に、合理的な関連性があると認められる限り、この制約は憲法一三条に違反するものでないと解すべきである。けだし、高等学校における生徒の懲戒処分は、生徒の教育について直接に権限をもち責任を負う校長や教員が、学校教育の一環として行うのであり、処分の適切な結果を期待するためには、学校内の事情はもとより、生徒の家庭環境を含む学校外の教育事情についても、専門的な知識と経験を有する処分権者の広範な裁量に委ねるのが相当であると認められるからである。

(二)  本件校則は本件学校の校長が学校の設置目的を達成するために制定したもの(内規)であること及び本件校則と学校の設置目的との間に合理的な関連性があることは後述のとおりである。

(三)  したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

5 本件校則は法令相互間の効力の優劣関係上、優位な法律でみとめられている原付免許取得の自由を侵害する点で違法であるとの控訴人の主張について

しかし、道路交通法規が一定の年齢以上の者に運転免許の取得を許容している趣旨は、道路における交通の円滑性と安全性を保持するためであるのに対し、本件校則が右法定年齢以上の生徒につき免許取得を制限禁止しているのは、学校の設置目的すなわち生徒の教育のためであって、両者の各規定は、その規制の趣旨目的を異にするものであることが明らかである。

したがって、生徒の教育を目的とする本件校則の規制が道路交通法令に違反して違法であるという問題は生じないから、控訴人の右主張は採用できない。』

3  原判決一六枚目表初行の『行政立法たる』を削除し、四行目の『せられる』を『すべきである』と改め、八行目の『行政立法として』を削除する。

4  原判決一六枚目裏四行目の『証人』を『原審証人』と改め、一七枚目裏五行目の末尾の次に『(ただし、無許可で原付免許を取得した場合の罰則については、生徒手帳に登載されてなく、生徒の入学時などに、生徒部担当の教員から、生徒やその父兄に口頭で説明していた。)』と加え、二一枚目裏初行の『証人』を『原審証人』と改める。

5  原判決二一枚目裏八行目の『証人』を『成立に争いがない乙第二五号証、原審における証人』と改め、二二枚目表初行の『なかった』から同行の末尾までを左のとおり改める。

『ないまま同年七月二〇日から夏休みになったこと、その後も匿名の電話などで、本件高校の生徒のなかに無許可で原付免許を取得している者がいる旨の通報が再三あったこと、そこで本件高校の上岡登校長は、生徒部担当の教員四名を同年八月二九日と三一日の両日、伊野免許センター(高知県警察本部所属)に派遣して、新規免許取得者名簿を閲覧し、無許可で免許を取得した生徒の有無を調査したこと、その免許取得者名簿の閲覧は幡東地区学校警察連絡協議会で事前に協定された事業の一環として行われたこと、右調査の結果、』

6  原判決二二枚目表一一行目の末尾の次に改行のうえ、左のとおり加える。

『そして、本件懲戒は刑事訴追にかかるものでないから、校長が懲戒の前提となる事実調査として、他人の所持する文書を閲覧しても、令状主義違反の問題は生じない。また免許センターの所持する免許取得者名簿の記載内容は、戸籍簿や前科関係調書等と異なり、プライバシーにかかるものでないから、免許取得者の同意なしに、名簿が他人に閲覧されても、免許取得者のプライバシーを侵害するものとは認められない。したがって、本件高校の校長が同校の教員に免許取得者名簿を閲覧させたことに違法はない。』

7  原判決二二枚目裏一二行目の『措置』から末行の『的』までを『過程において、控訴人に弁解の機会を与えない』と改める。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 滝口功 市村陽典)

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